限界を突破するアドレナリン
極限状態で働いて、信じられない力が出せる
火事場の馬鹿力、という言葉があります。これは、普通の状態では到底できないことであっても、極限状態に追い込まれると、凄まじい力が発揮できてしまうということです。
実はこの状態では、アドレナリンというホルモンが大量に分泌されていることがわかっています。
一般に、アドレナリンは興奮した時に分泌されているイメージですが、人の持つ可能性を伸ばしたり、限界を超えたパフォーマンスを発揮させてくれる作用もあるわけです。
自律神経との深い関係とは
元は危機回避のためのホルモン
アドレナリンは自律神経の交感神経が優位になっている時に分泌されます。この状態は、緊張して、興奮しているそうです。
自律神経は大きく分けると、交感神経と副交感神経という2つに分けられ、交感神経が緊張や興奮した時に働き、副交感神経はリラックスした時に働いて、体を健康に保っているわけです。
緊張しながらリラックスはできないのは、この2つの神経が同時には働くことがないからです。
そして、交感神経が活発化するときは次のような場面です。
・恐怖や不安を感じた時
・緊張や興奮状態になった時
・空腹時
・運動をしている時
・怒っている時、悲しい時
こんな時に、交感神経が興奮して、命の危機を感じた時や闘争か逃走かという選択を迫られた時にアドレナリンが分泌されます。
この、危険から身を守るという感覚は、一種の麻痺に近い状態なのです。アドレナリンは生存本能そのものだと言われています。
また、アドレナリンが大量に分泌されているときは、人間は3大欲求である、食欲、睡眠欲、性欲をも制限してしまうほど強い作用があるそうです。
アドレナリンが分泌される条件
鍵となっているのがストレスです。アドレナリンはストレスに反応して分泌されているということです。生き物にとってのストレスというのは、飢餓や敵に襲われるなど、生命の危機に関わることを言います。
要するに、アドレナリンの本来の働きというのは、生きるか死ぬかの危機に瀕した時に、生き残るために分泌されるホルモンだということなのです。
大昔の人類は、常に危機や脅威に囲まれて生活していたので、それが絶対的に必要なものだったと言われています。
しかし、現代人の場合は生命の危機に瀕することほとんどありません。現代人のストレスの原因は人間関係、仕事、お金などです。
普通、ストレスと聞くと、生命の危機というよりは、イライラ、不安、恐怖、緊張といった感情を伴うものですが、実は、このようなストレスでもアドレナリンは分泌されているそうです。
人間は持てる力をセーブしている
リミッターをアドレナリンが外す
人は、普段は持っているすべての力を使わないで生活しています。その理由は、いつも身体や筋肉を限界まで酷使していると、体の方が耐えきれなくなるからです。
要するに、無意識のうちに、脳はリミッターをかけていて自分自身のことを守っているわけです。
危機的状況に追い込まれたりすると、アドレナリンがたくさん分泌されますが、これが、リミッターが外れた状態だということです。
また、意図的にその状態に近づける方法の1つに、大声で叫ぶというのがあります。これは、スポーツ選手が、何かを決めようとする時に、大声で叫んだりします。
しかし、大声でシャウトするくらいでは、リミッターを外すことはなかなかできません。本当の火事場の馬鹿力のような状態を、意図的に作るのは難しいそうです。
アドレナリンの効果
メリット
筋力が向上
アドレナリンが分泌されると血管が拡張して、筋肉への血流が増加します。その結果、筋肉が多くのエネルギーを生み出すことができ、運動能力が向上するというわけです。
心臓の動きが活発になる
アドレナリンによって、心筋が収縮力を増し、脈拍が速くなって、運動による血液増加にも対応できるようになるそうです。
呼吸効率が上昇する
アドレナリンの分泌が、気道を拡張し、呼吸は速くなります。その結果、体内の酸素量が増えてたくさんの空気が肺に取り込まれ、長い時間活動できるようになります。
血糖値が上がる
アドレナリンの分泌によって、肝臓や筋肉に蓄えられていたグリコーゲンが分解され、血糖値が上がります。その結果、脳の覚醒が保たれ、集中力や判断力が高丸と言われています。
脂肪燃焼を促進
脂肪細胞にあるアドレナリン受容体が全身のエネルギーに必要な脂肪酸をつくります。そのため、脂肪細胞の燃焼が進無というわけです。
代謝が上がる
アドレナリンによって筋肉の血流が増え、エネルギー消費が増え、熱を生み出して、体温が上がる事になります。その結果、発汗が増え、代謝が上がるわけです。
鎮痛作用
アドレナリンの受容体は痛みを抑制します。闘って生き残らなければいけないという危機的状況では、痛みは不要になり、たとえ骨が折れていても、体が動く事になります。
デメリット
血行が悪くなる
思考や行動する運動能力に重要ではない皮膚などの末端部分は血管が収縮して、血流が制限されるそうです。
長時間ストレスがかかる状態で、アドレナリンが分泌され続けると、血行不良が起こり、冷え性、抜け毛などの症状が起こると言われています。
内蔵機能の低下
アドレナリンが分泌されると胃や腸などの筋肉は弛緩します。そのため、消化や吸収、排便などの機能が低下するそうです。また、腎臓の機能も制限され、利尿効果も低下します。
疾患につながる危険性
血圧や脈拍が上昇するので、高血圧や心臓病が悪化したり、血糖値が上がるため糖尿病が悪化することもあります。
常に興奮状態なので、自律神経のバランスが崩れ、自律神経失調症へとつながる可能性もあるそうです。また、脳への血流が増えて混乱し、パニック症状を引き起こすとも言われています。
依存性がある
何かしなければと焦ったり、ストレス状態を自分で作って頑張ろうとします。そして、アドレナリンを放出させることのできる状態を自ら作り出そうとするわけです。
そういうことを繰り返しているうちに、アドレナリンを作っている副腎が疲弊してしまいます。やがて、心も体も疲れてしまい、無気力になるということも起こり得ます。